理解されにくい感覚の鋭さ、鈍さ
発達障害者を理解する特徴として、「感覚の特異性」があります。
感覚とは五感には、視覚(みる)聴覚(きく)嗅覚(においをかぐ)味覚(あじを感じる)、触覚(さわる刺激)があります。
また、「固有受容覚」と「前庭覚」いうものがあります。
固有受容覚とは関節の曲げ伸ばしや筋肉を使うときにによって生じる感覚のことで、力加減、運動のコントロール、転倒から体を支えるなどの感覚です。
前庭覚とは平衡感覚、バランス、脳の覚醒などの感覚です。
米国精神医学診断基準DSM5では、自閉症スペクトラム(ASD:Autism Spectrum Disorder)の診断基準の一つとして
感覚入力に対する敏感性あるいは鈍感性、あるいは感覚に関する環境に対する普通以上の関心。
引用:DSMー5(米国精神医学会診断マニュアル)
と定義づけられています。
しかし、感覚過敏=自閉症スペクトラムということではなく、その人の「困りごと」や「特性を理解する」知識として知って頂きたいと思います。
過敏だけではない特性
感覚「過敏」という特性の方がクローズアップされがちですが、感じすぎるというだけではなく、鈍すぎることも同じ特性なのです。
感覚が鈍ければタフで困ることなどなさそうですが、逆に命の危険性を持っている場合があるのです。
そのことについて、昔読んだ手塚治虫の「どろろ」というマンガの一説が印象的です。
そのマンガの主人公、百鬼丸は父の栄華と引き換えの為に魔物に48の感覚を奪われて生まれて来ました。
目、鼻、耳、手足などが欠損し、体温がない、嗅覚も無い、暑さ寒さも感じないという状態で生まれてきます。その感覚を魔物を倒すごとに取り戻していくのですが、その感覚の一つで痛覚、触覚もあるのです。
触覚、痛覚がないと、自分の命に危機が迫っていることを感じとれない等と語っていました。(正確な情報が見当たらずうるおぼえです。)
感覚鈍麻のリスク
感覚過敏については本人が感じやすいところなので、訴えが出てきやすいのですが、感覚鈍麻については本人が自覚をしていないことも少なくありませんが、以下のようなリスクがあります。
- ストレスや疲労の感じ方の鈍感さから仕事を詰めすぎて急に倒れる。
- 温度の変化に鈍感で凍傷、火傷などをする
- 骨折の様な大けがをしていても気づかない。
- 感覚より先に身体の症状が出る。
周囲の保護者、理解者がよく観察をして、身を護るために特性と対策を本人にお伝え頂ければと思います。
そして、この鈍感さの特性を知り付き合っていくことは、仕事を続ける為に大事なポイントになります。
他には、ある繰り返しの刺激を求める「感覚探求」
逆に刺激を避ける「感覚回避」もあります。
これらの「感覚の特異性」は自他共にわかりにくい部分ですが、知識を持って行動特性を分析すると理解が出来てくる部分もあるのです。
まずは障害探しではなく、その人の理解の為に感覚特性を知って貰いたいと思います。
感覚特性の各特長
視覚
- 特定の色、色彩の組み合わせに苦手さ、あるいは快刺激を感じる。
- 光刺激、わずかな明るさが敏感で寝られなかったり、逆に暗刺激に敏感で暗闇をおそれる。
- 動くものが沢山ある人込みなどで視覚的に疲れる、逆に感じ取れずに目に入らない。
発達障害者である専門職のインディペンデンス
聴覚
- 特定の音に不快さ苦痛や逆に心地よさを感じる。
- 小さな物音や生活音が聞こえすぎてストレスを感じる、あるいは繊細な音の聞き分けができる。
- 必要な音や声だけを聴きわけることが難しい、あるいは大きな音が気にならず騒音を立ててしまう。
嗅覚
- 特定のにおいへの、心地よさ、不快さを敏感に感じる。
- 他人が気づかないようなにおいの変化に気づく。
- 敏感さでにおいの特徴などに気づく、逆に鈍感で体臭などに気づかない。
味覚
- 特定の味へこだわり、ひどく避けるか、逆にそればかり食べる。
- 食感(崩れ方、ねばつき、温度)などへのこだわりで、苦手さ、あるいは美味さを感じる。
- 味の要素を舌で感じ分けられる、逆に味覚を感じ分けられない。
触覚
- 衣服の着心地、肌触りが敏感で着られない服、あるいは着続ける衣服がある。
- 他人から触られることへの苦手さ、あるいは肌触りを求め続けることがある。
- 性刺激に鈍感、あるいは強い刺激を求める。
その他
- 平衡感覚の順応が難しく乗り物に酔いやすい、逆に特殊なバランス感覚で、大きな揺れにあっても転倒せずにいられる。
- 細かな運動フォームの自覚、感覚統合ができずにバラバラの動きをする、逆に微調整、感覚統合がすぐに出来る。
- 温度変化に鈍感で季節に合わない服を着たり、敏感で過剰に暑がり寒がりである。
- 空腹の感覚が乏しく食べ忘れる、あるいは満腹の感覚に乏しく食べ続ける。
- ケガや痛みに敏感で過剰に痛がる、逆に鈍感で身体の危機に気づかない
リ ンク先:発達障害者である専門職のインディペンデンス
感覚過敏の対応に過敏になりすぎないように
感覚過敏への対応には様々な支援ツールや環境配慮が考案されています。それはまた、個別にご紹介をさせて頂きたいと思います。
しかし、これらの感覚特性について支援者側から対応を組み立てると、少し過剰な配慮となる場合も感じます。
感覚の特異性は不利なことばかりではなく、有利なことや生活に困らないものも多くあるからです。
その為に、特性性の説明を反対定義を含んだ内容とさせて貰いました。
発達のばらつき、感覚の特異性を障害の認定ではなく「その人の理解」の為にあると知って欲しかったからです。
まずその人をフランクに知る手がかりにして見て下さい。
その上で感覚特性が困りごととなって表れているかを「観察」して見て下さい。
困りごととなって表れている時には「怒る」「泣く」「止まる」「パニックになる」「体調不良」などが出てきます。
その原因を知る手がかりとして感覚特性の知識を持って理解し、感覚特性による障壁がありそうなら支援の仮定を考えてみましょう。
仮定を立て実践をして、もし違えば、また支援の仮定を修正し、実践を繰り返す中で「その人の理解」が進み「より生きやすい方法」を見つけてられればいいと思います。
感覚特性は長所(ストレングス)でもある 。
こまりごとにならない感覚特性は、他人には特有の長所・才能とみることが出来ます。
その可能性の芽も同時に理解をしながら、伸ばし・活かす視点も大切です。
私の実践はまずは良い特性をまとめて本人に伝えました。他人からは当たり前に見える感覚特性の優れている部分を、案外本人が気づいていないこともあるのです。
そして、叱られることが多いと自己肯定感が下がり自分は無価値な人間と思い込み、才能に気づかずに潰してしまうこともあるのです。
だから、まずはよく「観察」をして、配慮からではなく「理解」をしてあげて欲しいと思います。
ちなみに私の過敏性は贅沢で保護者泣かせのものでした。
臭覚の過敏性から食べ物の鮮度によってのにおいの変化に敏感でした。だから、古い魚は臭いと言って食べようとしませんでした。
また、他人の心理・身体状態に大きな変化があったときに体液のにおいの変化がわかります。「ジョジョの奇妙な冒険」スタンド使いみたいな能力です。
味覚の過敏さがあって、ケチャップ、ソース、ドレッシングなどが苦手で、素味と多少の塩味が好きです。
舌の細かな感じ分けが出来て、甘味、塩味、辛み、旨味、苦み、酸味を舌のどの部分で何割ぐらいかを感じられます。なので、汁物などを少し飲めば、どの味の要素を足せば、重層的でバランスのとれた味になるかがわかり、補う調味料の種類と割合がわかります。なのでレシピを観ない余りもの食材を味覚で調合して好評を得られます。
聴覚の過敏さで、小さな物音に驚いて飛び起きてしまいます。なので、音楽やテレビを流して静か過ぎない環境で寝ています。
感覚の過敏さでは人の心の痛み部分だけに過敏すぎました。おかげで、たくさん損もしてきましたが、相談支援職を目指したきっかけでした。
ただ相談支援技術を学ぶ中で、良い面と悪い面があることを知り、そのセンサーのフォーカスをずらす技術を身に着けていきました。
それでもやはり誰も感じ取ってないような、潜在する困りごとにセンサーを当てて、周囲が理解しがたいことをしようとしています。
そのせいで、PTA会長時代は苦労と独り相撲をしてきました。このエピソードについては、また別の機会にお話しします。
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