リストラの時代に、誰が働く場から押し出されたのか③|働き方改革は、何を変えようとしていたのか

働き方改革 全投稿
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前回は、リストラと成果主義が広がった時代に、会社に残された人たちがどのような重圧の中で働いていたのかを考えました。

「次は自分かもしれない」という不安。
体調を崩しても言い出せない空気。
人を減らした後に、残された人へ仕事が集中していく構造。

そうした働き方は、発達障害者や精神障害者だけでなく、多くの人の心身を削っていきます。

では、その後の社会はどこへ向かおうとしていたのでしょうか。

私は、政治、経済、社会問題、福祉を別々のものとして見るよりも、それぞれがどこでつながっているのかを考えるのが好きです。

歴史は、単なる暗記ではなく、パズルのピースを埋めるようなものだと思っています。

リストラ、メンタルヘルス、働き方改革、ワークシェアリング、障害者雇用。
一見すると別々の制度や出来事に見えるものも、横につなげてみると、ひとつの流れとして見えてくることがあります。

ここで考えたいのが、働き方改革です。

働き方改革という言葉は、時に「残業規制」や「制度改正」としてだけ受け取られます。
けれど私は、それをもう少し大きな流れとして見ています。

人を切ることで会社を守るのではなく、
働き方そのものを見直すことで、人も会社も守る。

その方向へ進める可能性が、働き方改革にはあったのではないかと考えています。

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働き方改革のざっくり概要

働き方改革関連法は、2019年4月から順次施行されました。
大きな柱の一つは、長時間労働を抑えることです。

代表的には、残業時間に上限を設けること。
年次有給休暇を確実に取得させること。
フレックスタイム制を見直し、より柔軟な働き方を可能にすること。
同一労働同一賃金など、働き方による不合理な待遇差を見直すこと。

もちろん、制度にはメリットだけでなく懸念もあります。

残業代で生活を支えていた人にとっては、収入が下がる可能性があります。
中小企業や下請けの現場では、仕事量を選べないまま、表面上だけ残業が減ったことにされる危険もあります。
高度プロフェッショナル制度のように、過酷な労働につながるのではないかと心配された仕組みもあります。

だから、働き方改革を手放しで礼賛するつもりはありません。

けれど、私はこの制度の流れを、単なる労務管理の話だけでは見ていません。

長時間働くことを前提にしない。
休むことを前提にする。
一人が抱え込みすぎない。
生活と仕事を切り離さない。
働く人の心身を守る。

そうした方向へ、社会が少しずつ進もうとしていたのだと思います。

法改正を、悪意だけで見ない

新しい制度ができるたびに、不安の声は上がります。

それは当然です。
制度は、現場に入ったときに思わぬ影響を与えることがあります。
法律を作る側の理屈と、現場で働く人の生活感覚がずれることもあります。

だから、制度への警戒は必要です。

ただ私は、法改正をすべて悪意で見ることにも違和感があります。

たとえば介護保険制度も、導入前には多くの不安や批判がありました。


家族介護を行政が放棄するのではないか。
高齢者を制度の中に押し込めるのではないか。
そうした懸念もありました。

けれど、実際に制度が始まると、介護保険は従来の医療保険だけでは支えきれなかった生活課題を扱う、大きな仕組みになりました。
もちろん問題はあります。
制度の限界もあります。
それでも、ケアマネジメントや在宅支援の考え方を社会に広げたことは大きかったと思います。

制度は、できた時点で完成するものではありません。
現場での実践、修正、批判、改善を重ねながら、少しずつ人の生活を支えるものになっていく。

働き方改革も同じです。

最初から完璧な制度ではありません。
むしろ運用を誤れば、働く人をさらに追い詰めることもあります。
けれど、その本流にあるものが「働く人の生活と健康を守ること」なら、現場で誠実に育てていく価値はあるはずです。


メンタルヘルス政策の延長線上にあるもの

私は、働き方改革をメンタルヘルス政策の延長線上にもあるものとして見ています。

前回見たように、リストラと成果主義の時代には、働く人の心身が大きく揺さぶられました。
職場で苦しさを言えない。
休めない。
仕事量が増えても断れない。
家族との時間や睡眠を削って、会社にしがみつく。

その結果として、働く人のメンタルヘルスは社会全体の課題になっていきました。

だからこそ、長時間労働を見直すことは重要です。

人は、休まなければ壊れます。
睡眠を削り続ければ、判断力も落ちます。
家族や地域とのつながりを失えば、生活そのものが細っていきます。
仕事だけに人生を預ける働き方は、本人を追い詰めるだけでなく、会社にとっても持続可能ではありません。

もちろん、残業代がなければ生活が成り立たない人もいます。
低賃金のまま残業だけを減らせば、生活は苦しくなります。
その意味で、働き方改革は賃金や雇用の問題と切り離せません。

しかし、本来問うべきなのは、
残業しなければ生活できない賃金構造であり、
休暇や生活時間を犠牲にしなければ回らない仕事の組み方ではないでしょうか。

長時間労働を前提にした職場は、発達障害者や精神障害者にとって特に厳しい。
体力や睡眠、感覚過敏、対人疲労、緊張の持続、気分の波。
そうした特性がある人にとって、長時間労働は単なる「頑張り」の問題ではありません。

働き方改革は、その意味で、障害のある人だけでなく、働く人全体にとって必要な見直しだったのだと思います。

残業を減らした後、仕事はどこへ行くのか

では、働き方改革によって残業を減らすとして、その仕事はどうなるのでしょうか。

これまで一人が長時間残業してこなしていた仕事。
休日を削って処理していた仕事。
家庭や睡眠を犠牲にして回していた仕事。

それを、ただ「残業してはいけない」と言うだけでは、現場は苦しくなります。

仕事量が変わらないまま労働時間だけを減らせば、密度が上がる。
家に持ち帰る。
サービス残業になる。
管理職や一部の人にしわ寄せがいく。
それでは、本当の意味で働き方は変わりません。

だから必要なのは、仕事の再設計です。

一人が抱えていた仕事を、分ける。
複雑すぎる業務を整理する。
短時間でも担える作業を切り出す。
誰か一人の能力や根性に頼らない仕組みにする。

ここで出てくるのが、ワークシェアリングという考え方です。

残業を減らした分、仕事が消えるわけではありません。
その仕事を、別の誰かが担える形に分け直す。
それによって、新しい雇用の入口が生まれる可能性があります。

私は、ここに障害者雇用の可能性を見ています。


働き方改革は、障害者雇用につながる

働き方改革は、単に今働いている人の残業を減らすだけの話ではありません。

仕事を分け直す。
短時間で担える作業を作る。
特定の工程だけを切り出す。
一人が長時間抱え込んでいた業務を、複数の人で支える。

そう考えると、そこには障害者雇用の入口が生まれます。

発達障害者や精神障害者の中には、長時間働くことは難しくても、短時間なら力を発揮できる人がいます。
対人調整は苦手でも、決まった作業には集中できる人がいます。
フルタイムの職場環境には耐えにくくても、限定された業務や静かな環境なら働ける人がいます。

働き方改革によって、仕事が分解され、時間が見直され、業務の切り出しが進めば、これまで企業の中に入れなかった人たちにも、新しい働く場が開かれるかもしれません。

私はそこに、強い期待を持っています。

障害者雇用は、企業に課せられた負担だけではありません。
働き方を見直すことで、これまで見えなかった仕事を発見し、これまで働く場から外れていた人を迎え入れる仕組み
にもなり得ます。

リストラの時代は、人を減らして会社を守ろうとしました。
しかし、働き方改革の先にあるべきなのは、人を切ることではなく、仕事の形を変えることです。


コストカットの逆方向へ

私が働き方改革に期待しているのは、そこです。

リストラは、人件費を削ることで数字を改善しようとしました。
働き方改革は、本来なら、その逆方向に進めるはずです。

働き方改革、ワークシェアリング、障害者雇用、そして超短時間雇用。

これらは別々の制度や取り組みに見えます。
けれど、うまく連動すれば、過去のコストカット政策とは逆の方向をつくれるのではないかと私は考えています。

人を減らして数字を整えるのではなく、仕事を分け直し、働ける人を増やす。
一人に長時間労働を背負わせるのではなく、短い時間でも役割を持てる仕事をつくる。
それは、リストラの時代とは違う雇用の作り方です。

その方向に進めば、働き方改革は、障害者雇用ともつながります。

発達障害者や精神障害者が無理なく働ける場を作ることは、特別扱いではありません。
むしろ、誰にとっても働きやすい職場を作ることにつながります。

仕事を分かりやすくする。
手順を整理する。
休みやすくする。
相談しやすくする。
短時間でも役割を持てるようにする。
人によって得意な工程を担えるようにする。

それは、障害のある人だけでなく、育児や介護をしている人、体調に波がある人、年齢を重ねた人、長時間労働に耐えられない人にとっても意味があります。

働き方改革が本当に目指すべきなのは、そういう社会ではないでしょうか。

ちょうどいい仕事のシェアへ

では、長時間残業をしてまでこなしていた仕事を、どう変えていくのか。

一人で抱え込むのをやめる。
別の人にしてもらう。
そのために、仕事を分ける。
残業代として支払っていたお金を、新しい雇用に回す。

それが、ワークシェアリングの考え方です。

もちろん、簡単なことではありません。
仕事を分けるには、業務を整理しなければなりません。
人に任せるには、手順を見えるようにしなければなりません。
短時間で担える仕事にするには、職場側の工夫が必要です。

けれど、そこにこそ可能性があります。

働き方改革が、ただの残業規制で終わるのか。
それとも、仕事を分け合い、新しい雇用を生む方向へ進むのか。

私は、その分かれ道に障害者雇用の未来があると考えています。

次回は、働き方改革を進める方法としてのワークシェアリング、そしてその担い手としての障害者雇用について考えていきます。

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