前回は、「働き方改革」から「ワークシェアリング」、そして「障害者雇用」へと話を進めました。
いよいよ、世紀末から始まったリストラの時代を抜けて、これからの働き方の話に進んでいきます。
……と言いながら、また福祉制度の話です。
私たち福祉専門職は、思わず当たり前のように福祉用語を使ってしまいます。
就労継続支援。
就労移行支援。
障害者雇用率。
工賃。
最低賃金。
雇用保険。
定着支援。
説明しようとすればするほど、余計な詳細を掘り下げて、読者を遠ざけてしまうことがあります。
でも、ここで扱いたいのは、福祉関係者だけの内輪話ではありません。
これは、国に関わる課題です。
働き方改革。
ワークシェアリング。
障害者雇用。
精神障害者の雇用義務化。
そして、超短時間雇用。
これらがどうつながっていくのかという話です。
だから今回は、なるべく福祉用語を深掘りしすぎず、浅く、かみくだいて説明したいと思います。
この記事で言いたいことは、かなり単純です。
週20時間働けるかどうか。
その線を超えられるかどうかで、同じ「働く」でも、まったく違う世界に分けられてしまう人たちがいる。
そして、その線を越えられない人にも、短い時間で力を発揮できる働き方があるのではないか。
今回は、その話です。
週20時間の壁が生む、凄まじい貧富の差
障害者雇用のフィールドに立つには、一定の労働時間が必要になります。
その中でも大きいのが、週20時間以上働けるかどうかという壁です。
この週20時間というラインを超えられる人は、一般企業の障害者雇用につながりやすくなります。
企業と雇用契約を結ぶ。
最低賃金以上の賃金を得る。
条件を満たせば、雇用保険や社会保険にもつながる。
その企業の給与体系の中で、働く人として位置づけられる。
もちろん、障害者雇用だからといって簡単ではありません。
職場環境。
配慮。
仕事内容。
人間関係。
通勤。
体調管理。
働き続けるためには、いろいろな支援が必要です。
それでも、一般企業の障害者雇用は、「雇用」として社会に参加する道です。
では、週20時間働けない人はどうなるのでしょうか。
多くの場合、障害福祉サービスの就労系事業所につながることになります。
就労継続支援B型。
就労継続支援A型。
就労移行支援。
もちろん、これらのサービスにも大切な意味があります。
生活リズムを整える。
働く経験を積む。
人との関わりを取り戻す。
すぐには一般企業で働けない人が、安心できる場所で少しずつ力をつける。
その役割はあります。
私も、福祉的就労そのものを否定したいわけではありません。
ただ、ここには凄まじい差があります。
就労継続支援B型では、工賃という形でお金が支払われます。
賃金ではなく、工賃です。
時給に換算すると、100円以下になることもあります。
時給1000円の間違いではありません。
100円以下です。
頑張って作業をしても、月に数千円から一万円台。
もちろん事業所によって差はあります。
でも、生活を支える賃金というには、あまりにも厳しい水準です。
就労継続支援A型であれば、雇用契約を結ぶため、最低賃金に近い形で働くことができます。
それでも勤務時間や日数によって、収入は限られます。
障害基礎年金と合わせても、生活は決して楽ではありません。
一人暮らしをする。
家賃を払う。
食費を払う。
通院する。
服を買う。
交通費を払う。
たまには人付き合いをする。
それを考えると、福祉的就労の収入だけで生活を組み立てるのは本当に厳しい。
同じように「働く」と言っても、どのフィールドに立てるかで、得られる収入も、社会保障も、将来の見通しも、大きく変わってしまう。
その分かれ目の一つが、週20時間です。
週20時間を超えられるか。
超えられないか。
たったそれだけのようでいて、そこには本当に大きな断絶があります。
働く力がないわけではない。
短時間なら働ける。
決まった仕事ならできる。
環境が合えば力を発揮できる。
それでも、週20時間に届かないだけで、一般企業の障害者雇用のフィールドから外れやすくなる。
私は、ここに大きな違和感があります。
※賃金・工賃の記述は、元記事掲載時点の内容です。


一般企業での障害者雇用では
では、一般企業で障害者雇用が進めば、それですべて解決するのでしょうか。
もちろん、そんな簡単な話ではありません。
障害者雇用といっても、職場によって大きな差があります。
私は、そこに二つの違いがあると思っています。
開拓された職場と、
開拓されていない職場です。
開拓されていない職場
残念ながら、障害者雇用には、十分な配慮がされていないのに給料だけ安い職場や、特性に合った仕事が与えられていない職場も存在しています。
「発達障害者の強みを活かした職場」と言いながら、実際には配慮のために賃金を安く設定しているように見える職場もあります。
これは、当事者としてはかなり引っかかります。
配慮があるから賃金が低い。
失敗しない仕事だけを渡すから賃金が低い。
苦手を避けているから賃金が低い。
そう言われると、本人の強みや能力はどこに行ったのかと思ってしまいます。
ただ、それを企業だけの責任だとは思いません。
企業はもともと、障害福祉サービスのために事業をしてきたわけではありません。
事業を行い、利益を出し、組織を維持するためにあります。
そこに突然、障害者雇用義務が「アメとムチ」方式で提示されたのです。
障害者を雇用するべきという社会的な機運も、自然と受け入れられる風土も十分ではない中で、突然、実態もよくわからない障害者を雇わなくてはいけなくなった。
企業側が戸惑うのは当然です。
障害特性への専門的理解も、職域開発のノウハウも、支援機関との連携も十分ではない。
その状態で、「特別な想い」や「障害特性の専門的理解」でもなければ、どこまで真摯に本人の能力を前向きに引き出し、強みを活かした職場環境づくりに労力を割けるでしょうか。
まずは、助成金対策や、法律の抜け穴づくりに走ってしまうのではないか。
私はそこに、強い危うさを感じています。
少し皮肉を込めて言えば、こんな会話が職場の裏側にあるのではないかと想像してしまいます。
「法律が変わって、障害者を雇わなあかんらしいで」
「でも、何を任せたらええんやろう」
「とりあえず、簡単な作業を用意しとこか」
「思ったよりできるやん」
「でも配慮してる分、賃金は抑えてもええんちゃうか」
もちろん、すべての企業がそうだと言いたいわけではありません。
ただ、障害者雇用が「制度上、雇わなければならないから雇うもの」になってしまうと、どうしてもこういう発想に近づいてしまうのではないかと思うのです。
開拓されている職場
一方で、障害のある人が働きやすい仕事をつくりたいという「特別な想い」を持った企業理念に、障害特性の専門的理解を持った支援や職種が加わると、職場は少しずつ開拓されていきます。
本人の苦手な刺激を取り除く。
力を発揮しやすい環境を整える。
仕事の手順を見えるようにする。
働き続けられる仕事量を調整する。
苦手を避けるだけではなく、得意を役割に変える。
その開拓の担い手には、就労移行支援事業所、障害者職業センター、ジョブコーチ、雇用環境整備士、障害者就業・生活支援センター、企業内の担当者などがあります。
私は、このような支援が入ることで、障害者雇用は単なる雇用率の数字ではなく、本人の人生を開く場になり得ると考えています。
ただ残念なのは、仕事のできない部分を差し引かれて、給料も差し引かれる傾向があるように感じられることです。
これは、実際に私が行政の運営する障害者職業センターで、利用者としてキャリアカウンセラーに相談したときにも感じたことでした。
私自身、以前の職業相談の中で、自分の弱点や配慮してほしいことを正直に話した結果、「倉庫作業」や「後方事務」といった選択肢にかなり狭められた経験があります。
もちろん、それらの仕事が悪いという話ではありません。
ただ、私のキャリア、資格、職業適性結果の長所、知的水準や能力を見たうえで、少しでも力を発揮できる職業選択として提示されたというより、苦手な部分を避けるために、可能性を狭く見られたように感じました。
そこには、ストレングス視点の欠如がありました。
発達障害者に、客観的な長所や局所的なスキルがあっても、障害特性による齟齬ばかりが見られ、能力を活かして働ける場所が少ない。
そして、本来持っている知的水準や能力に見合った仕事につけず、はるかに低い社会評価の中で生きなければならない人がいる。
私は、そのことに強い問題意識を持っています。
詳細は、2015年12月4日に書いた過去記事でも触れています。
ここまでの整理
ここまでを一度整理すると、問題は単純です。
障害者雇用は、制度があるだけでは足りません。
企業に「雇ってください」と言うだけでも足りません。
本人に「頑張って働いてください」と言うだけでも足りません。
本人の力を活かせる仕事を、企業の中に作れるかどうか。
そこに、開拓された職場と、そうでない職場の差があります。
障害者雇用が本当に意味を持つためには、本人の特性を理解し、企業の業務を見直し、その人が働ける役割を作る支援が必要です。
開拓された職場へ、どうやって結びつくのか
開拓された職場に結びつくこと。
これは、障害者雇用では本当に大事です。
求人票に「障害者雇用」と書いてあるだけでは足りません。
雇用率の対象になるだけでも足りません。
配慮事項の欄があるだけでも足りません。
その職場が、本人に合う仕事を本気で作ろうとしているか。
そこが大事です。
その点で、障害者雇用を専門に支援する民間サービスには、開拓された職場へつながる入口としての役割があるのではないかと考えています。
年収500万~1200万と、高年収帯の求人や専門性を活かした求人につながる事例があることにも、私は驚きました。
それは、障害者雇用支援への長年の真摯な取り組み、能力開発、雇用環境開拓、企業との交渉力によるものだと思います。
「開拓された職場」に繋がるためには、開拓する力を持った就労移行支援事業所や専門支援機関の利用が、ひとつのパスポートになるのではないか。
私はそう考えています。
関連して、障害者雇用を専門に扱うサービスについても別記事で整理しています。
もちろん、サービスに登録すればすべて解決するわけではありません。
大事なのは、本人に合う職場が本当に開拓されているか。
そして、企業の中に、その人の力が活きる仕事が作られているかです。


「週20時間」を超えられないと、時給100円以下の世界へ
ここで、また週20時間の壁に戻ります。
障害者雇用のフィールドに立つには、一定の労働時間が必要になります。
その時間に届かないと、企業の障害者雇用ではなく、福祉的就労に戻されやすくなる。
すると、何が起きるか。
就労継続支援B型では、時給換算で100円以下になることもあります。
繰り返しますが、1000円ではありません。
100円以下です。
一日通って、作業をして、頑張っても、月に数千円から一万円台。
もちろん、事業所や作業内容によって違いはあります。
それでも、一般雇用の最低賃金とはまったく違う世界です。
就労継続支援A型では雇用契約があるため、最低賃金に近い形で働けます。
それでも、勤務時間や日数によって収入は限られます。
障害基礎年金と合わせても、生活は決して楽ではありません。
一人暮らしをする。
家賃を払う。
食費を払う。
通院する。
服を買う。
交通費を払う。
たまには人付き合いをする。
それを考えると、福祉的就労の収入だけで生活を組み立てるのは本当に厳しい。
それでも、その人たちは働いています。
働く意欲がないわけではありません。
ただ、週20時間以上働くことが難しい。
そこに、あまりにも大きな差が生まれている。
働けるか、働けないか。
その線引きが、あまりにも粗いのではないかと思います。
短時間なら働ける人がいる。
週に数時間なら働ける人がいる。
一日15分なら力を出せる人がいる。
特定の仕事なら集中できる人がいる。
その人たちを、週20時間に届かないからといって、一般企業の雇用の外に置き続けてよいのでしょうか。
私は、ここに強い問題意識があります。
※賃金・工賃の記述は、元記事掲載時点の内容です。
15分から働けて、最低賃金が保障される障害者雇用モデル
この問題を考えるうえで、私が強く惹かれたのが、超短時間雇用です。
短い時間でも、最低賃金以上の報酬を得ながら働けるモデルです。
この超短時間雇用は、東京大学先端科学技術研究センターの近藤武夫先生らが研究・提唱している雇用モデルです。
一般企業の中にある仕事を細かく見直し、短い時間でも担える役割として切り出していく。
その人が働ける時間に、実際の職場の中で役割を持てるようにする。
そこが、単なる福祉的な作業や体験ではなく、「雇用」として大きな意味を持つところだと思います。
リンク先:東京大学先端科学技術研究センター
超短時間労働


最短で1日15分。
週1時間からでも働ける。
しかも、最低賃金以上が保障される。
この発想を知ったとき、私はかなり衝撃を受けました。
なぜなら、これは「働ける人だけが働く」のではなく、その人が働ける時間と仕事を、社会の側が見つけるという発想だからです。
障害者雇用をするために、無理に仕事を作るのではありません。
まず、職場の中で仕事を見直す。
誰か一人に集中している仕事を分ける。
短時間でも担える作業を切り出す。
その人が力を出せる時間に合わせる。
企業の中に、短い時間でも成立する役割を作る。
これは、まさにワークシェアリングです。
紹介されていた事例では、ソフトバンクの都内オフィスで、ショートタイムスタッフが企業内の実際の仕事を担っていました。
24人のショートタイムスタッフで、週165時間分の雇用を生み出しているという話は、かなり印象的でした。
一人ひとりは短時間でも、全体として見れば、企業内の仕事を支える力になる。
こうした実践は、障害者雇用を「週20時間以上働ける人だけ」の制度にしないための大きなヒントになります。
企業にとっても意味があります。
一人に集中していた仕事が分散される。
長時間労働を減らせる。
業務が見える化される。
短時間でも力を発揮できる人が、職場の中で役割を持てる。
これは、ただ優しいだけの話ではありません。
職場の仕事を整理することです。
業務を切り出すことです。
人を使い捨てるのではなく、人が働ける形に仕事を変えることです。
私はこのモデルを、精神障害者や発達障害者にとって、かなり理にかなった方法だと感じています。


超短時間モデルの中で活かされる、精神障害・発達障害者の能力
精神障害者や発達障害者には、長時間・多方面・対人調整込みの働き方が合わないことがあります。
でも、それは能力がないという意味ではありません。
むしろ、短い時間や限定された仕事の中で、力を発揮できる人がいます。
私はかなり大胆に、障害特性と仕事の関係を考えていました。
ASDの人が、決まった手順の作業や分析的な仕事に力を発揮することがある。
ADHDの人が、動きのある仕事や人との関わりで力を発揮することがある。
精神障害のある人が、表現や芸術性、繊細な気づきで力を持つことがある。
うつを経験した人が、真面目さや誠実さを仕事に活かせることがある。
もちろん、診断名だけで仕事の向き不向きを決めることはできません。
ASDだからこの仕事。
ADHDだからこの仕事。
精神障害だからこの仕事。
そう単純に当てはめることはできません。
ただ、障害特性を「弱み」だけで見るのではなく、仕事の切り出し方次第で活かせる力として見ることはできるはずです。
決まった手順の作業に強い人。
細かい違いに気づく人。
言葉の分析に強い人。
人との関係づくりに力を発揮する人。
独自の発想や表現を持つ人。
真面目にコツコツ積み重ねる人。
集中できる環境で高いパフォーマンスを出せる人。
一人ひとりの特性や強みを見れば、その人が力を発揮できる場面はあるはずです。
問題は、その力を発揮できる形に仕事が切り出されているかどうかです。
長時間働ける人だけを前提にするのではなく、短い時間でも役割を持てるようにする。
何でもできる人を求めるのではなく、得意な工程を担えるようにする。
苦手な環境に無理に合わせるのではなく、力が出せる環境を作る。
そうすれば、障害者雇用はもっと豊かになるのではないでしょうか。
仕事量を減らさず、人を切り捨てない道へ
リストラの時代は、人を減らすことで会社を守ろうとしました。
けれど、私はその逆方向を考えたいのです。
仕事量をただ減らすのではなく、仕事を分ける。
障害者雇用率も守る。
働く人の休暇も保障する。
短時間でも働ける人に役割を作る。
その人のスペシャリティを、適材適所で活かす。
そうすれば、長時間労働の対策にもなり、障害者雇用の環境づくりにもつながるのではないでしょうか。
一人にすべてを背負わせない。
一人の弱さを理由に切り捨てない。
一人の得意を、短い時間でも職場の中で活かす。
そのために必要なのは、企業の中で仕事を見直すことです。
障害者雇用は、企業の外側に別枠で置くものではありません。
本来は、企業の中に新しい役割を作るものです。
働き方改革。
ワークシェアリング。
超短時間雇用。
スペシャリティを活かす働き方。
これらがつながれば、過去のコストカット政策とは違う未来が見えてくるはずです。
人を減らして会社を守るのではなく、
仕事を分けて、人が働ける場を増やす。
私はそこに、障害者雇用の本当の可能性を見ています。
また長くなったので、ここで一区切り
ここまで書いて、また長くなってしまいました。
本当は、もっと短くまとめるつもりでした。
働き方改革からワークシェアリング、障害者雇用、週20時間の壁、超短時間雇用まで。
一つずつ書いているうちに、結局また話が広がりました。
でも、私の中ではこれは全部つながっています。
人を減らして会社を守るのではなく、仕事を分けて人が働ける場を増やす。
長時間働ける人だけを標準にするのではなく、短時間でも役割を持てる仕事を作る。
障害者雇用を、企業の外側に追いやるのではなく、企業の中に新しい役割を作る。
私は、そこに障害者雇用の希望を見ています。
障害者雇用は、雇用率を満たすための装置ではありません。
本来は、働く場からこぼれ落ちた人たちを、もう一度社会の中に迎え入れるための制度であるはずです。
今度こそ、この流れを一度ここで区切りたいと思います。
……と言いたいところですが、もう一つだけ、避けて通れない話が残っています。
週20時間の壁を越え、超短時間雇用という可能性が見えてきたとしても、問題はそこで終わりません。
その働く場を、誰が、どのように開拓していくのか。
福祉だけで担うのか。
企業だけに任せるのか。
それとも、福祉と企業のあいだに立ち、本人の力が活きる職場をつくる支援が必要なのか。
次回は、障害者雇用環境づくりを、福祉関係者だけの課題ではなく、国や企業社会全体の課題として考えていきます。




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