きずなグループ問題は、何が問題だったのか①|不正受給と、障害者雇用の空洞化を考える入口として

きずな問題の根幹① 全投稿
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きずなグループ問題を、単なる不正受給事件として終わらせてよいのでしょうか。

もちろん、不正は不正として厳しく問われるべきです。
制度を利用し、報酬を不正に受け取ったのであれば、それは障害福祉制度全体の信頼を傷つけます。
何より、その事業所を利用していた人たちの生活や働く場に大きな影響を与えます。

きずなグループ問題の根幹、障害者雇用の空洞化

大阪市は2026年3月27日、絆ホールディングス傘下の4法人が運営する就労継続支援A型事業所について、訓練等給付費の請求に関する不正が判明したとして、2026年5月1日付で指定取消処分を行い、加算額を含む約110億7650万円の返還を求めると公表しました。対象となったのは、リアン内本町、レーヴ、リベラーラ、Mirrimeの4事業所です。

これは、就労継続支援A型という制度の信頼を大きく揺るがす問題です。

しかし、私がこの問題を見ていて強く感じるのは、もう少し根の深い問いです。

なぜ、障害のある人の「働く」が、ここまで制度上の数字や報酬に変わってしまったのか。
なぜ、本人のキャリア形成や社会参加ではなく、「就労したこと」「雇用していること」そのものが、事業や企業にとっての利益として扱われる構造が生まれてしまったのか。

この連載では、きずなグループ問題を入口に、障害者就労支援制度と障害者雇用制度のあいだにある「空洞化」の問題を考えていきます。


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大阪市が問題とした「36か月プロジェクト」と就労移行支援体制加算

大阪市が処分理由として示した中心は、就労移行支援体制加算をめぐる不正請求です。

就労移行支援体制加算は、本来、利用者が一般就労へ移行し、その後の定着に向けた継続的な支援体制が構築されている事業所を評価する趣旨の加算です。
ところが大阪市は、当該事業所では「36ヶ月プロジェクト」のもと、就労継続支援A型事業所の利用に戻ることを前提にした自社雇用のたびに加算を請求していたと説明しています。大阪市は、その自社雇用を「事業所の支援計画のプロセスの一部にすぎない」とし、定着に向けた継続的な支援体制が構築されているとは評価できないため、加算要件を欠く不正請求にあたるとしています。

ここで重要なのは、単に「お金を不正に請求した」という話だけではありません。

本来、一般就労への移行や定着を評価するための加算が、グループ内での雇用とA型利用の循環の中で算定されていたと評価されたことです。

つまり、問題の核心は、
本人が社会の中で働く場を広げていったのか
ではなく、
制度上、就労したことにできる形が作られていたのではないか
という点にあります。

ここに、私は障害者雇用の空洞化につながる問題を見ます。


事業者側の説明も確認しておく

この問題を考えるうえでは、事業者側の説明も確認しておく必要があります。

絆ホールディングスは、2026年3月27日付のお知らせで、大阪市から処分内容の通知を受け、対象となるA型事業所を2026年4月末で閉鎖すると公表しました。同社は「36か月プロジェクト」について、最終的には一般企業への就職による自立を目指し、利用者の状況に応じた段階的な支援や再チャレンジの機会を提供する取り組みだったと説明しています。
一方で同社自身も、大阪市からは、利用者の障害特性や就労能力ではなく、事業所主導で自社雇用への移行またはA型への移行を繰り返し、過大に就労定着者を創出したものとして、不正請求と評価されたことを公表しています。

ここで大事なのは、事業者の説明を切り捨てることでも、行政判断だけをなぞることでもありません。

事業者側は「障害者のための段階的支援だった」と説明している。
大阪市は「加算要件を欠く不正請求だった」と判断している。

この両方を踏まえたうえで、私たちが問うべきなのは、
制度の中で“就労”と評価されるものが、本当に本人のキャリア形成につながっていたのか
という点です。


利用者の生活と働く場への影響

この問題は、行政と事業者だけの話ではありません。

厚生労働省は、対象4事業所の指定取消処分に伴い、利用者について解雇が発生する場合には、再就職支援や他事業所への移行支援等が必要になるとし、大阪市や関係自治体と連携して支援を行うと公表しています。

制度上の不正が明らかになったとき、最も影響を受けるのは、そこで働いていた人たちです。

その人たちは、制度を悪用しようとしたわけではありません。


働きたい。
生活を安定させたい。
自分なりに社会とつながりたい。
そうした思いで事業所を利用していた人も多かったはずです。

だからこそ、この問題を「悪質な事業者が不正をした」で終わらせるだけでは足りません。

不正が明らかになった後に、利用者の生活と働く場をどう守るのか。
そして、そもそもなぜ、これほど多くの人がその仕組みの中に組み込まれていたのか。
そこまで考える必要があります。


私が障害者雇用に期待してきたこと

私は、障害者雇用という制度に長く期待してきました。

とくに、2018年4月1日に精神障害者が雇用義務の対象に加わったときには、大きな希望がありました。
企業の中に、精神障害のある人が働ける場所が増えていく。
これまで「働けない」と見なされてきた人たちにも、仕事の一部を分かち合い、配慮を受けながら、段階的に力を発揮していく道が開かれていく。
そう本気で期待していました。

それは、単に法定雇用率を満たすための制度ではなかったはずです。

企業の側が、自分たちの仕事を見直し、職域を切り出し、環境を整え、障害のある人を同じ職場の仲間として迎え入れていく。
その積み重ねによって、社会の働き方そのものが少しずつ変わっていく。

実際に、そうした努力を重ねている企業もあります。
無印良品を展開する良品計画は、障害者雇用を「店舗での雇用拡大および雇用定着」として位置づけ、個々の特性に合った雇用管理やステップアップ制度を整えていると公表しています。

だからこそ、きずなグループ問題を見たとき、私は単なる制度不正以上の痛みを感じます。

障害のある人の「働く」が、本人の人生を開くものではなく、制度上の数字や報酬を生み出す仕組みに変わっていないか。
その問いを、避けて通ることはできません。


障害者雇用の空洞化とは何か

この連載で使う「障害者雇用の空洞化」という言葉は、単に障害者雇用制度を批判するための言葉ではありません。

私は、障害者雇用を大切な制度だと思っています。


本当に障害のある人が働きやすい雇用が増えてほしい。
企業の中に、障害のある人の仕事が生まれてほしい。
その人の特性に合わせた働き方が、企業の文化や職場改善にもつながってほしい。

だからこそ、制度の中身が抜け落ちることを問題にしたいのです。

制度上は「就労した」ことになる。
数字上は「実績」になる。
報酬上は「加算」になる。
企業側から見れば「雇用率」を満たすことにもつながる。

しかし、その人の働く経験は、本当に次の可能性へ開かれているのか。
企業や事業所は、その人のキャリアを広げるために変わっているのか。
社会の側は、障害のある人を迎え入れる努力をしているのか。

そこが抜け落ちたとき、障害者雇用は空洞化していきます。


この問題は、一事業者だけで終わらせてはいけない

きずなグループ問題は、まず不正受給として検証されるべき問題です。
大阪市が示した処分理由、返還請求、対象事業所、利用者への影響は、事実として重く受け止める必要があります。

しかし、それだけで終わらせてしまえば、制度の根にある問題は見えなくなります。

就労支援制度では、一般就労への移行や定着が評価される。
障害者雇用制度では、企業に法定雇用率の達成が求められる。
どちらも、本来は障害のある人の働く機会を広げるために必要な仕組みです。

けれど、数字が目的化したとき、制度は人を支える仕組みから、数字を動かす仕組みに変わってしまう。

きずなグループ問題は、その危うさを私たちに突きつけています。


次回へ

次回は、今回の問題の中心にある就労移行支援体制加算について整理します。

なぜ「就労したこと」が報酬になるのか。
その加算は、本来どのような目的で設けられていたのか。
そして、なぜその仕組みが、今回のような問題につながったのか。

きずなグループ問題を一事業者の不正として終わらせるのではなく、障害者の「働く」が数字と報酬に変わる構造として、もう少し深く見ていきます。

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